【読み:しゅっかん】
遺体を火葬場や葬地に移すことを「野辺送り」といいます。これは以前は遺族が死者と共に喪屋に移るときの言葉でした。母屋から喪屋に遺体を移すとき忌火と共に移動したことの名残から、出棺のとき参列者が忌火を持って墓地に移す習慣が残っている地方もあります。出棺では、玄関口を通さないで縁側から出ます。そのとき棺をかつぐ人は草履を履いたままというのがしきたりで、これは永遠の旅立ちを意味しています。新しい履きものを履いたまま下に降りたり、縁側から出入りすることを嫌うのはこういう事情があるからです。出棺するとすぐ掃除し、愛用の茶碗を割ったり、お米を投げたりする風習がありますが、死霊がさまよいこないよにするためです。また地方によっては、棺をぐるぐる回して帰り道をわからなくする風習もあります。 死者は古代青い衣装を着ましたが、中世からは白、そして近世以後は白い旅装束で杖を持ち、守り袋にお金を入れ、脚絆(きゃはん)や足袋、草履を履きます。今でもこれらの衣裳を全部手縫いする地方もあり、とくに経帷子(きょうかたびら)は、何人もの女性の手で縫うとよいとされているところもあります。生前好んだ衣裳は、その上から着せてあげます。死者はきものの合わせが左前となりますが、左信仰の篤い日本では、左前とすることによって、生きている人間の位より一段と高いところに上がったことを認識させます。