【読み:まつくいづるもん】
若松の小枝をくわえる飛鶴の文様です。「まつばみづる」ともいいます。
古代オリエントには鳩などの鳥がオリーブの小枝やリボン、真珠などをくわえる含綬鳥文や咋鳥文がみられ、生命復活の印でした。やがて中国に伝わり、正倉院御物にも遺る花咲く小枝をくわえる鳥の「花喰い鳥文」となりました。鳥は鸚鵡(おうむ)、鳳凰、鴛鴦、鵞鳥(がちょう)、尾長などで、蔓はわずかでした。
花枝も日本にはなじみのないものです。平安時代後期、文化の和風化とともに人々の美意識に添ったなじみのある鶴となり、若松をくわえて飛ぶ姿に和様化が定着しました。
松と鶴という吉祥の主題を組み合わせるのは、『栄花物語』、『長秋記』ほかの平安時代の記述によくみられますが、松をくわえて飛ぶ鶴の伝統は、正倉院宝物の金銀平脱花鳥背八角鏡の文様にみる、「含綬鳥(鶴)」にさかのぼります。
その遺例は、厳島神社古神宝類中の小唐櫃(からびつ)に蒔絵(まきえ)文様がみられ、この「松喰鶴」の文様が公家調度品の文様として盛行しました。
この松喰鶴文は藤原文化の代表的な文様として様々な分野で用いられ、近世、近代になっても途切れることなく吉祥の印として愛好されています。